No−144(改)(4オーム対応) 製作記
2000年4月完成
(2000年7月and10月記)
UHC−MOSは大電流動作が得意分野。これをオーディオアンプに初めて(か?)応用したデンオンPOA−MXの概要がMJ93年9月号にある。
なんと、シングルプッシュプル出力段BTLで1Ω1400W(8Ω250W)だ。ちなみに1Ω1400W出力時には40Aの電流を食うなんて書いてある。低インピーダンス負荷に電力を供給するのは大変なことなんだなぁ〜(1.4KWだからあたりまえか(^^;)。だが、これをシングルプッシュプルで供給できるUHC−MOSも改めて凄い素子だ。
こういう超ド級のアンプはプロに任せておくしかないし、これを使うような超ド級スピーカーシステムがある訳ではないので、縁のない世界なのだが、4Ωのスピーカーはごく現実だ。我が家にも4Ω160Wのミニスピーカーがある。別に8Ω用に設計されているNo−144や139(もどき)で十二分な音量で鳴るので実用上問題はないのだが、この際超ド級アンプで使用されているUHC−MOSの能力は、より生かしてみたいではないか。
大義名分はこのミニスピーカー。これ用に低インピーダンス対応のアンプを製作しよう。既にNo−143、No−148、No−158と低インピーダンス対応の製作記事が発表されているし。なかでもちょうどよく発表された2000年3月号のNo−158は、放熱器設置法や基盤のサポートに新たな工夫を加えてあり、難があると思われる放熱問題の解決も期待できそうだ。これを拝借しない手はない。
電源はどうするか、なのだが、実はNo−144のトランスは1KVA(のはず)。アンプの方さえ対応すればちゃんと低インピーダンス対応電源になっているのだ。と言うわけで、No−144の電源部を共有する完全対称型アンプの4台目として、No−144(改)(4オーム対応)アンプを製作することにしたのだった。
考えるまでもなく、回路はこうなる。
No−144からの変更点は、終段のドライバーであるK214をソースフォロア接続にしたこと、保護回路を4Ω設定にしたこと、MFBの電流検出抵抗を4Ω用に0.1Ωにしたこと、そして、UHC−MOSを許容チャンネル損失100WのG1から125WのG2にしたことだ。
ソースフォロア接続の理由は言うまでもなくUHC−MOSを最大限効率的にドライブし、ダーリントン接続の場合以上の出力を期待するもの。この辺の理屈は98年1月号のスーパーサーキット講座No−25に詳しい。また、K214がエキスパンダー動作するというのも金田さんの言うメリット。他の変更点は4Ω対応にする以上必然的な変更点だ。
特に保護回路はNo−144のままでは低インピーダンスに対応できない。
この保護回路は、出力段(UHC−MOS)の電流、電圧を共に検出(ということは損失電力を検出)することにより、出力段のバイアスを制限して出力素子の損失オーバーによる破損を防ごうとするものだ。と思う。具体的には、D756のベース、エミッタ間が0.6VになるとD756がONとなり、2段目差動アンプの負荷抵抗(=終段ドライブ抵抗)を短絡し、出力段のそれ以上の損失増加を抑えるというものだ。
そこで、ちょっと保護回路の動作を検討してみると、No−144の定数設定で、UHC−MOSに流れる電流をA、アンプ負荷抵抗をRとし、D756のB−E間電圧をVとすれば、
V=(34−R×A)×0.68/(75+0.68)+0.1×Aで計算されるので、R=アンプの負荷抵抗値を色々変えてV=0.6ボルトになるAを計算してみると次の表のようになる。
16Ω 8Ω 6Ω 4Ω 2Ω 1Ω 0Ω(ショート) 動作電流 - 10.48A 6.39A 4.6A 3.6A 3.24A 2.95A 保護電流 - - - 4.6A 3.6A 3.24A 2.95A 保護損失 - - - 71.76W 96.48W 99.66W 100.3W 可能出力 36W 72W 96W 42W 13W 5W 0W
R=0は、アンプ出力端子ショート事故時、またはアイドリング電流異常時だが、A=2.95アンペアでV=0.6Vとなり、電流2.95アンペア、UHC−MOS損失2.95×34=100.3Wで制限され、G1の許容チャンネル損失内(0.3Wのオーバーは問題ないだろう)で保護される訳だ。
R=8は、8Ωスピーカーをつないだ場合に相当するが、A=10.48アンペア以上でないとVが0.6V以上にならない。が、8Ω負荷では34V/8Ω=4.3A以上の電流がUHC−MOSに流れることはなく、ということは保護回路が動作することはないので、8Ω負荷では設定電圧から期待される最大出力が得られる訳だ。
ところが、R=4、すなわち4Ωスピーカーだと、A=4.6アンペア以上で保護回路が働いてしまう。この電流値は34V/4Ω=8.5アンペア以下なので、電源電圧から期待される4Ωスピーカーでの最大出力を得られず、計算では50W以下で制限されてしまうことになるのである。さらに2Ωでは13W、1Ωでは5W程度の出力しか期待できないと計算される。
これはひとえにUHC−MOSの許容損失100Wを超えないようにするためで、こうして見るとこの保護回路は簡単な回路で非常に上手くできた保護回路だ。
したがって、このままではNo−144は低インピーダンス不対応。要するに、本質的には素子の許容損失と設定電源電圧により、現象的には保護回路により、No−144は4Ω以下のスピーカーではかえって出力が制限されてしまう、という訳。
解決策は、電源電圧を下げるか、より許容損失の大きい素子を用いるか、して、併せて保護回路の設定を変えなければならない。ので、G2を起用し、No−158の保護回路定数を採用し、併せて放熱器を倍用いるNo−158の筐体構造を採用することにより、4Ω対応のNo−144(改)アンプにして4Ω100W超をねらおうという訳だ。
さて、ここで余計な話。
この保護回路は良く出来ているようで実は良く出来ていない。これが上手く動作するならアンプの製作調整時に電源とアンプの間に1Aのヒューズを入れてUHC−MOSが飛ぶ事故を防ぐなんてことはしなくていいはず。わたしのNo−144もプリアンプ調整中のプリの異常でUHC−MOSを飛ばしてしまったりしなくてよかったはずなのだ。大体許容チャンネル損失は放熱条件が理想的な場合のもの。No−144などはB級動作を前提とした放熱設計でまさに非理想的放熱条件下にある。しかもこの保護回路は電流・損失制限型で保護回路動作中も制限電流が流れ、制限損失でアンプは動作するわけで、残念ながらこれではUHC−MOSはたまらず昇天してしまい、0.1Ω、D756,K214等のほか、運が悪ければスピーカーまで道連れにお亡くなりになるという悲劇が時に聞こえてくるという訳だ。あな、恐ろしや。
というわけで保護回路は、異常を検出・記憶し、一瞬にして終段の動作を停止させるものに本当は変更しなければならないのだが、それは別の機会にすることとした。
(2000年7月記)
(続き)
このアンプはNo−158のケース構造を拝借したものだ。
No−158は、アンプ部のケースにタカチのOS99−26−33BXを使用している。No−144等に用いられたOS49−26−33BXのちょうど2倍の容積のケースだ。これで内部は見ての通り実にガラガラという感じになるが、このガラガラが使い勝手の面でちゃんと活かされたのがNo−158の構造だ。
と言うのは、フレックスのTF−1208という放熱器をこのケースの側板として活用し、さらにアンプ基盤を放熱器間を渡したアルミ板に吊り下げることによって、放熱効率もだが、実用効果として内部配線作業やメンテナンスの効率性が大きくアップしたものになっているから。
放熱器を側板として活用するアイディアは既にMJ98年12月号のNo−152の時からあったものだが、さらに吊り下げ構造でケース底板もフリーにしたことで、そのメリットがさらに徹底されたものだ。お陰で配線作業は非常に楽になった。ケースの天板と底板を取り外して作業すれば良いので実に面倒がない。太くて堅くて通常は取り付けにくいモガミの2497も苦もなく配線出来てしまった、のは右のとおりだ。
要するに基盤も放熱器もその他の部品も所定の位置にあってアクセスフリーになった訳で、このため、配線作業のみならず、調整作業も、部品の交換などのメンテナンス作業も、基盤をケースから取り外したりすることなく行うことが出来るのである。ケース容積の拡大のメリットを上手く活かしたもので、こうなるとやはり大きいことはイイことだ。(^^;
が、ケース加工はその分面倒になった。穴のねじ切りという新たな作業もしなければならないし、L字のアルミアングルの切断や穴開けという作業もあるので金ノコも必要と、所用工具もやや増える。と言っても大した作業ではないのだが、経験のない方にとってはやや戸惑うことが多いだろうと思う。穴開けにもある程度の精度が必要になるし。
TF−1208を2個、OS99−26−33の側板代わりにするというアイディアは、作ってみると実に上手くできたものだ。金田さんの記事に従って放熱器を連結してケースの四隅の三角状柱に取付加工すると、放熱器がこのケースのために誂えたかのようにピッタリ収まる。放熱器の上下を連結するL字のアルミアングルの厚みとその取付ねじの頭の出っ張がケースの上下で天板、底板にぶつからないかと思ったが、それが上手くケース内にぎりぎりで収まってくれる。まるで計って作ったかのように。
だが、2個の放熱器の上下を連結して一体化し、四隅を三角状柱に取り付けても、どうもその強度は十分ではないようだ。そもそも放熱器の上下をアルミアングルで連結しても2個の放熱器はリジッドには固定されない。これを四隅でケースに取り付けてみても、一応固定されたようにはなるが、連結した放熱器の中央をちょっと強く押してやるとやや動いてしまうという程度の強度にしかならないのだ。
こんなもので良いのか?と思ったのだが、さらに基盤吊り下げ用のL字アングルの桟を2本渡して取り付けると実にキチッとした強度になる。なるほど、吊り下げ構造のアイディアは、基盤へのアクセスをフリーにするためだけではなく、放熱板を側板の代わりとするアイディアの改善策(取付強度確保)でもあった訳だ!と、私は勝手に思っている。
さて、ここで失敗談。ねじ切りという作業は久しくやった覚えがない作業なのだが、それ用の工具をD.I.Y店で手に入れてやってみたところ、やや慣れてきたところでなんと三角状柱のねじ切り中にタップが折れてしまったのだ。タップが折れてしまうと中に埋まったタップの残骸を取り出すことは至難の業で、私は諦めざるを得なかった。三角状柱だけ手に入れられるかな〜、と途方に暮れたが、上下を反転すれば三角状柱のもう一面が使えると気づいて何とかOKとなった。タップ切りは油を付けながら切っては戻すという正しい方法で力加減に留意して慎重にやることが肝要です。(^^;
また、アルミのアングルだがこれは金田さん指定のタカチのものではなく近所のD.I.Y店で手に入れたもの。厚みや長さは適当なものを見つくろって金ノコで切断した。Z型のアングルは入手できなかったので、L型アングルを背中合わせに組み合わせねじで固定して代用している。が、これで十分。(^^)
No−144(改)の製作記なのにまるでNo−158の製作記のよう。なのは、基盤部分以外が殆どNo−158の構造を拝借したものだからだが、アンプ自体はNo−144を4Ω対応にしたもの。これに伴いソースフォロア接続とした2SK214は、No−144に比して損失電力が大きくなるので小型の放熱器を付けたのはNo−158と同じ。(むこうは必要とは思えないのだが(^^;)
初段差動アンプの共通ソースの半固定抵抗は、正体がイマイチ不明だが、当地唯一の部品屋にコパルのRJー13型に混じって置いてあったもので、JRM(日本抵抗器)のもののようだ。既に現行品ではないようで、多分部品屋に長年眠っていたものだろう。随分と昔、落合萌という方がMJに発表した製作記事で使われていたものと同じもののようだ。ということはどうでもいいのだが、この際なので使ってみたもの。
という以外は特にNo−144と変わったところはないが、今回は部品についてはいつものテクニカルサンヨーさんのパーツセットではなく、個別に集めた。
UHC MOS−G2(=COPT−121)は埼玉のエイフルさんから4個セットで手に入れた。なんと日本コロムビアJAM事業センター印が押された定格表(血統書)付きの“由緒正しき”ものだ。(^^;
「こいつはあんたの責任と知識で使ってね。うちの会社も販売店もこいつを使って損害が生じたって一切知らないよ。全部おまえが悪いんだよ。ついでに技術サポートも性能保証もしないよ。」と注意書があるのは世情の鏡だが、これで、素子に白文字で2.0と手書きされている、どこかのId値でVgs2.0Vのものを選別したものと思われる日本コロムビア純正のUHC−MOSが手に入った。ま、選別の手間を考えればありがたいものというべきか。
その他についても、殆ど地方では入手困難なので、テクニカルサンヨーさんから通信販売で入手したり、秋葉原で入手したり、ということで集めた。が、2段目共通ソースの半固定抵抗コパルのN−13T500Ωだけは今は幻の部品で、手持ちストックだ。
ここでまた余計なことだが、長年金田式DCアンプで使われてきた進の抵抗「RE55」も生産は大分前に終了していたようだが、市場在庫もついに尽きたようだ。私が今使っているのは、数年前に製作を見越して入手しておいたストックと、長年の間に貯まった自己ジャンクの中古品だが、最早新しいアンプを作ろうとしても必要な定数が揃わない。このため代替を考えなければならなくなっているのだが、彼の方は未だに進のRE55で製作記事を発表されている。また手に入らない部品で製作記事を発表していると批判されないうちに、そろそろ代替品を発表してもらいたいものだ。
さて、音出しの前に調整だが、今回はそう言う訳で基盤も放熱器もケースに取り付けて必要な配線をしつつ行った。当初は初段のサーミスタには1S1588がパラ接続されておらず、2段目の共通ソース抵抗の820Ωは1.2KΩだった。
片チャンネルの電源を配線する。初段の半固定抵抗は中央に、2段目の半固定抵抗は左一杯の位置にし、+34V電源には電流計(テスター)と万一のトラブルを避けるための1Aのヒューズを入れる。
電源をONしてミューティングスイッチをOFFにする。異常があれば即ミューティングをONにし、電源スイッチも慌ててOFFにする訳だが、幸い電流計は0だ。OKだ!というわけで、2段目の半固定抵抗をゆっくり右に回したがなかなか終段のアイドリング電流が立ち上がらない。右一杯近くでようやく流れ出したが、最大限右に回しても所定の400mAに達しない。出力オフセットの方は初段の半固定抵抗で0とする。
もう一方のチャンネルも調整すると同様の状態だ。
となれば、終段のバイアスがもう少し深く(大きく)なるよう手だてを講じなければならないので、2段目の共通ソース抵抗を820Ωに交換した。基盤をケースの所定の位置に付けたままでこれが出来るのが、このケース構造のなせるワザだ。今度は終段のアイドリング電流も上手く適正値に調整できる。が、サーミスタ200D5による温度補償が過剰なようで温度上昇と共にアイドリング電流が減っていく。逆に言うと、電源ON時はアンプが冷えているためにアイドリングが定常時の倍程度になってしまう。
これは、サーミスタ200D5の温度−抵抗値特性がリニアではなく、低温時の抵抗値上昇が相対的に大きいのが原因とされている。そこで、サーミスタに色々と抵抗をパラに接続してみてカットアンドトライしてみると、330Ωで電源ON時の過大電流も解消され良さそうだ。取りあえずこれでアイドリングを400mAに合わせて調整作業を終了し、音出しだ。
良い音だ。ダイナミックな音の出方も一層優れるようで余裕のようなものを感じさせてくれる。早速4Ω160WのエレクトロボイスS−40を鳴らしてみると、こんな小型のスピーカーが鳴っているとは信じられないようなスケール感のある音がする。
これで聴いても十分だよな〜などとひいき目から自己満足してしまう。(^^;;
が、COPT−121とCOPT−119の音の違いというか、No−144との音の違いと言われても困る。私にはそれを聴き分けられる優れた耳もないし、装置もないので。(^^;;
と喜んでばかりもいられないことには、200D5にパラに接続した330Ωは失敗で、温度上昇に伴いアイドリング電流まで上昇に転じてしまっていることに気づいた。過ぎたるは及ばざるが如し、ではないが、単純に抵抗をパラ接続してサーミスタの低温時の抵抗値上昇を抑えただけでは、同時にサーミスタの温度係数も全体的に押さえてしまい、必要な温度補償効果まで抑制して危険な状況に陥ってしまう。という訳なので、それではと330Ωに代えて1S1588をパラ接続して完成となった。
No−158など4Ω対応の完全対称型の金田式DCアンプは、終段のUHC−MOSにアイドリング電流を400mA流す。8Ω用は200mAだから倍だ。だからUHC−MOSのアイドリング時の損失も倍となる。となれば放熱器も2倍にしないと釣り合いがとれない。(下記の通りそもそもギリギリの放熱器だから)
No−144等の8Ω用の完全対称型パワーアンプは、TF−1208を放熱器としてこれをOS49−33−26の中に収めているのだが、私がその型式のアンプを幾つか作った経験では、イマイチ放熱状況やアイドリング温度補償が完璧ではない。端的に言うと、特に気温が高い夏場などは、ケース天板を開けておかないと熱暴走に陥ってしまいそうになるのだ。まあ、私の作り方が悪いか、私の入手したサーミスタなどの部品が実は指定のものと違うかの理由によってこうなるのだろうが、逆に天板さえ開けておけばどれも熱暴走することなく長時間に渡って安定して動作してくれているので、まあ良しとしている。
今回のNo−144(改)は、No−158のケース構造を採用し、放熱器が半分ケース外で外気にさらされることから放熱条件もNo−144などより改善される筈なので、この点の改善効果にも期待したのだが、結論から言うと残念ながら状況は変わらなかった、と言わざるを得ない。放熱器TF−1208の数は2倍なのだが、アイドリング電流も2倍流すので放熱器倍増の効果はそれで相殺され同じだ。となれば、放熱器が外気にさらされる点だけが期待できる部分なのだが、自然対流による放熱効果は大したものではないらしく、やはり夏期はケース天板を開けておかないと熱暴走に陥りそうな状況になるのは同じのようだ。逆に天板さえ開けておけば全く問題ないのもまた同じ。
と言うわけで、私の金田式完全対称型DCパワーアンプの製作経験からすると、No−144(と同構造のアンプたち)はアイドリング電流100mA、No−158構造のNo−144(改)はアイドリング電流200mAが放熱条件や温度補償法からは適切な設定のように感じる。はたして彼の方の完全対称型DCパワーアンプの温度補償は既に初段のドレイン側から終段バイアス抵抗部分に移行して久しいが、私はその型式では作っていないので何とも言えない。
私としてはケース天板を開けて使うことに抵抗はないので、そのままそれぞれ200mA、400mA設定で使用しているが、実は天板をして使っても安心な使い方もある。それはケース自体を強制空冷することで、端的に言えば扇風機でケースに風を当てて使えば全くOKなのだ。あるいは最近どこにでもあるコンピュータ用のファンでケース内空気を外気と循環させてもOKだ。(ノイズ発生の可能性は格別・・・(^^;)
さて、最後に念のためだが、以上はあくまで私の製作したアンプでの話しに過ぎないことなので、悪しからず。
(2000年10月9日記)
(その後)
No−144(改)も製作後1年半。
この間冬も夏も経験しこのアンプの安定度について大概の様子は分かった。
一年前に、放熱条件についてNo−144と比してさしたる違いはないように書いたのだが、その後の運用結果からすると放熱器を立てて外気にさらしていることによる放熱条件の改善効果はやはりあるようだ。30度を超える夏場に天板を閉めたままで運転してもアイドリング電流と放熱板の温度は平衡に達して安定する。やはり外気に接している分、放熱効果は高い。
音の方も実は一番かな・・・と思っているのである。UHC−MOSは凝縮されたエネルギー感、密度感がいい。結果音楽の情感が深い。
となると、No−139(もどき)その2のように安全面の機能も高めたい。出力DC漏れに対する保護回路を製作時に見送ってしまったのだが。
些細なことではあるがこれがあればさらに安心感が加わって、何もかも忘れて心行くまで音楽を堪能できるだろう(^^)
現実問題としても、DC出力保護回路用の小さな基板でもこれを追加することが物理的に可能なのはOS99−26−33BXをケースとしたこのNo−144(改)ぐらいで、OS49−26−33BXをケースとしたものはそもそも不可能。
ところで、出力DC漏れなんてそうそう起こるのか?
と言うと実はそんなことは殆ど起きない。ほぼゼロだ。
が、電源入断時のミューティング対策等の行き届いた市販品しか知らない家人達にアンプ類の電源入断の常識は期待出来ないし、ピンジャック等の接触不良や機器自体の故障といった万が一の事態が全くないとは言えないだろう。(アンプの電源入断の順序については自分でもポカしないとは限らないし(^^;)
そこで、No−139(もどき)その2 With 2SD217に続いて出力DC保護回路を付加してみることにしたのだ。
が、MJ2001年9月号No−164で金田さんが十数年振りに発表された2SK2554を半導体スイッチとして電源をカットする例の保護回路ではなくて、No−139(もどき)その2 With 2SD217に採用した保護回路なのだが(^^;
No−139(もどき)その2では、保護回路の保護条件成立信号をアンプ初段の定電流回路に伝達してその動作を停止させることによってアンプ全体の動作を停止させ、出力DCの発生を断じている。
果たして、初段の定電流回路がバイポーラTRでない横型FETである場合も同様にアンプの動作を停止させられるだろうか?
TRならベース電流なくしてコレクタ電流はないので動作停止は簡単だ、が、FETの場合はゲートオープンでドレイン電流は盛大に流れるし、あの回路では初段2SK117のバイアス電圧を上手くカットオフ電圧以上に深くすることは出来ないよう思われるので、FETを定電流回路に起用している場合はNo−139(もどき)その2で採用した、初段定電流回路動作停止式は採用できないだろう・・・。
となると、“自作オーディオのページ”で紹介されているように、2個のフォトカップラで上下の2SK214のゲート抵抗1KΩを挟んでそのバイアス電圧をカットして終段の動作を停止させる方式にしなければならないかな・・・ 2個も使うのはなんだかな〜(^^;
と、ずっと思っていたのである。が、
ん!! ある夜、散歩中にふと思った。
初段の定電流回路の動作を完全に停止させる必要は必ずしもないのか・・・。初段の動作電流が減れば2段目の動作電流も減り、結果終段に必要なバイアス電圧が発生せずカットオフとなって終段は動作を停止するじゃないか・・・それでも目的は達するよな〜〜
なんと、そうか(^^; 気付いてしまえばあたりまえだが、なかなか気付かないのが素人の悲しいところだ(^^;
そこでNo−144(改)の回路はこうなった。な〜んだ、No−139(もどき)その2と同じじゃないか(^^;
回路図中の電圧表示は対アースではなく当該抵抗の両端電圧だが、保護回路が働くとそれがこうなる。
保護回路が働くとフォトカップラがツェナ−ダイオードをショートするので、結果、2SK117はゲート・ソース間に2.2KΩを挟んだ自己バイアス方式定電流回路に変身し、動作電流が約1/10に減少する。すると、2段目差動アンプを構成する2SJ74のバイアスも深くなってその動作電流も減り、結果終段用のバイアスが浅くなって、UHC−MOS・COPT−121は完全にカットオフ状態となる。これに伴い出力DC分は0Vとなる。という訳だ。上手くいったようだ。が、完全に大丈夫かは保証の限りではない(^^;
簡単な回路の電源遮断方式保護回路が発表された今となって見れば、安全度、完成度の観点からは当然電源遮断方式の方が上だ。何せアンプのどれかの素子が壊れたとしても電源電圧がかからなければ出力DCは決して発生しないのだから安全度は高い。要するに危険要素を元から絶っているのだ。
ところがこちらの方式では電源電圧は各素子にかかったままだ。だから素子自体に異常が発生した場合は保護回路が働いたとしても素子の異常で出力DCがなお発生してしまう可能性がある。
すなわち電源遮断型はパワーアンプ自体の故障によるDC出力の場合もスピーカーを保護してくれるのに対し、こちらの方式ではパワーアンプ以前の機器等が原因のDC出力の場合は保護できるものの、パワーアンプ自体の故障によるDC出力の場合は保護出来ない可能性の方が高いというわけ。
その意味では簡易型保護回路と言えるかもしれない。にもかかわらず、保護回路自体の製作にかかる手間はそう違わないと思われるから、DCオフセット保護回路は金田さんの新方式で作るのが正解だ。
じゃあ、何故そうしなかったの? とやつ。
そうだなぁ・・・自分も次に電源を新調する時にはそうするかもしれないが、今回は既にある電源部に手を入れるまでの気分にならなくて・・・
もうNo−139(もどき)その2でこの簡易型保護回路を採用してしまってたし、比較すれば安全度、完成度には劣るものの、自分的にはこれもDC出力保護回路としては十分だと思うし、電源直列の半導体スイッチもちょっと・・・(^^;
さて季節は秋だ。
澄んだそら 木犀の香り 枯れゆく美しさ
また夏が去り やがて来る時雨
越えられぬ時空
・・・か
(2001年10月4日)
20年ぶりのその後
・最早20年。 ・No-144改(4Ω対応)パワーアンプ。 ・最近の低能率スピーカーにはそれなりのパワーが必要。 ・なので、久方振りに現役復帰。 ・改造、改廃をまぬがれて生き残っていたNo-144改(4Ω対応)パワーアンプだが、現役復帰前に多少見直す。 ・そのために、まず終段に起用しているUHC-MOS-FETのシミュレーションモデルをでっち上げる。 ・で、でっち上げてみたUHC-MOS-FETのVd=10Vにおけるソース接地伝達静特性を観る。 |
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・左から、赤が2SK2554、緑がCOPT−121、そしてピンクがCOPT−119。 ・それぞれ2SK2554、2SK2529、2SK1297のデータシートのそれに近いものとなったような感じ。 ・で、COPT−119は2SK1297であると思うのだが、No−144改(4Ω対応)で起用しているCOPT−121が2SK2529なのかどうかは不明。今となっては知るすべもない。 ・が、その辺はそもそも大体。COPT−121≒2SK2529だと思って、右の緑の特性を使ってLTSpiceで占ってみる。 |
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・今回、復帰に当たって多少回路を見直した。 |
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・終段COPT−121のアイドリング電流は200mA程度とした。 ・頑張って400mA流すのは止める。 ・熱(暑)い。 ・また、クローズドゲイン設定を4Ω負荷で32dB程度からから22dB程度に下げた。 ・32dBは、ちょっとゲインが大きい。 ・これに伴い、位相補正コンデンサーの容量も変更。 ・さらに、2段目差動アンプの左側にも同容量の位相補正コンデンサーを追加した。 ・不要とも思えるが、LTSpiceの占いでは100kHz超の領域で適切な効果が観られる。 |
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・図は2つで一組で、上がR25=0.1Ω、R24=1kΩの場合、中がR24=R24=500Ωの場合、下がR25=1kΩ、R24=0.1Ωの場合。 ・各組の上の図は、いずれも赤がオープンゲイン、緑がクローズドゲイン、青がループゲイン。 ・負荷R=4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩ(負荷オープン相当)としたパラメトリック解析なので、オープンゲイン(赤)とループゲイン(青)は下から負荷が4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩの場合。 ・緑のクローズドゲインは、それぞれ拡大したものを下の図としてに付けている。 ・これもそれぞれ下から負荷が4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩの場合。 ・拡大すると、クローズドゲインの700kHz付近に多少ピークがあることが鮮明になる。 ・そのピークは、R25=0.1Ω、R24=1kΩとした場合が一番大きく、順に小さくなっている。 ・このピークはループゲインが0dBに沈む利得交差周波数における位相回転が-90°以上に回っていることを示しているのだが、図で観てみると-120°程度になっている。 ・この状態だと、方形波応答に多少のリンギングが生じるだろう。が、この位の位相余裕設定の方がK式的な音になる。 ・本当か? ・R24とR25は実際は1kΩのボリュームで、電圧帰還と電流帰還を調整するモーショナルフィードバック調整用だが、上がR25を0.1Ωとした電圧帰還最大の場合、下がR24を0.1Ωとした電流帰還最大の場合、中がR24=R25=500Ωとした中間の場合である。 ・電圧帰還最大でも電流帰還最大でも4Ω負荷の場合のクローズドゲインは同じだが、負荷がより大きい場合、電圧帰還最大から電流帰還最大の方向でクローズドゲインがやや大きくなる。これは電流帰還側の電流検出抵抗を4Ω負荷に合わせて0.33Ωにしてあるため。 ・で、これによってモーショナルフィードバック調整抵抗を電圧帰還側から電流帰還側に回すほどに、低音(ウーハー)の制動がきつめから緩めに変化する。という効果を発揮する。 ・が、このモーショナルフィードバックの効果はそう有用ではなかったのか、この方式もとうに捨てられてしまった。 ・実際これでモーショナルフィードバックなのか?という論点もあるが、少なくとも、これでこのパワーアンプ出力のインピーダンスが小さいものから大きいもの(電圧出力から電流出力方向)に変化する。 ・が、世の中のスピーカーが電圧出力のパワーアンプを前提に作られている現実においては、この方式の意味は殆どなかったということだろう。大体のスピーカーでは、電流出力最高方向にセットすると低音がボワンボワン(大げさな表現です。)になってしまうから。 ・要はスピーカーとの相性の問題、丁度よい調整点を探す手間の問題なのだが、まぁ、大体は電圧帰還最大にするのが良いスピーカーシステムが大半なので、特に必須の機能ではなかったということなのだろう。 ・とは言え、スピーカーシステムによっては効きすぎる制動が過剰に感じられることもあり、その場合はやや電流出力方向に調整すると低域の豊かさを感じられて丁度良い場合があるのも確か。 ・なので、この機能も引き続き残しておく。 |
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・10kHz方形波応答を観る。 ・入力1Vp−p10kHz 方形波。 ・モーショナルフィードバックコントローラーはVNF一杯。 |
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・想定通り、多少のオーバーシュート、アンダーシュート、リンギングが生じる。 ・が、問題ない。 ・なお、CNF一杯にしても方形波応答波形には特段の変化はない。 |
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・歪率を観る。 |
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・4Ω負荷時も8Ω負荷時も全域で0.1%未満。 ・4Ω負荷時の最大出力は140W程度。8Ω負荷時は70W程度。 ・1KHzの歪率が2W付近でピークを有している。何故か? ・知らない。 |
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・電圧伝送アンプはK式では過去のもの。 ・だが、世の中はほぼ100%電圧伝送。 ・しかも、素晴らしいオーディオ機器があまたある。 ・電流伝送は良いのだが、世の中のそれら電圧伝送の機器に組み合わせるのはやや面倒。 ・という訳で復帰した電圧伝送のNo-144改4Ω対応パワーアンプ。 ・実に素晴らしい。 |
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・気分を良くして裏山に散歩に出かける。 ・新緑が実に爽快。 |
2019年5月12日
20年ぶりのその後の続き
・回路をちょっと見直した。 |
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・帰還回路のR22を330Ωから220Ωに変更し、クローズドゲインを4Ω負荷で22dB程度から25.5dB程度に3.5dB程度大きくした。 ・また、スピーカーに流れる電流検出用抵抗であるR23の0.33Ωを0.1Ωに変更した。 ・4Ω負荷でのVNE:MAXとCNE:MAXでのゲインの乖離を最小にするためには0.22Ωとする必要があるのだが、それよりも出力インピーダンスの変化範囲を、バスレフ方式の現用スピーカーに音的に適切な範囲にすることを優先したもの。 |
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・ゲイン-周波数特性は、当然オープンゲイン(赤)には変化がなく、クローズドゲイン(緑)が3.5dB程度大きくなり、ループゲイン(青)が3.5dB程度小さくなっている。 ・その結果、利得交点周波数における位相余裕が大きくなり、下のクローズドゲインの拡大図の通り、高域におけるピークもほぼなくなった。 |
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・10kHz方形波応答。 |
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・殆ど同じ。 |
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・歪率を観る。 |
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・クローズドゲインを3.5dB程度大きくしたので、ループゲイン≒NFB量は3.5dB程度少なくなった。ので、歪率は全域でやや悪くなった。 ・が、4Ω負荷時は128W以下で、8Ω負荷時は70W以下で0.1%未満なので、良いだろう。 ・1%以下まで可とすれば、4Ω負荷時の最大出力は140W程度、8Ω負荷時は70W程度。 |
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・電流注入法で出力インピーダンスを観る。 ・まずは、電流検出抵抗R23=0.1Ωの場合。今回変更した定数である。 |
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・VNF:MAXの場合 0.27Ω ・VNF:MAXとCNF:MAXの中間で 0.64Ω ・CNF:MAXの場合 1.19Ω |
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・電流検出抵抗R23=0.22Ωの場合。 ・VNF:MAXで 0.49Ω ・中間で 1.23Ω ・CNF:MAXで 2.32Ω |
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・電流検出抵抗R23=0.33Ωの場合。 ・VNF:MAXで 0.78Ω ・中間で 2Ω ・CNF:MAXで 3.79Ω ・なので、電流検出抵抗R23は0.1Ωとする。 |
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・内部。 | |
・音 ・体幹を揺るがすタイトで弾力のある低音。 ・艶っぽく濃い中高域。 ・全域で色気のある演奏を聴かせる。 ・とても良いね。 |
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2019年5月26日
・パイロットランプ。アラート色の赤LEDはやはりそぐわない。ので青LEDに変更。 |
UHC-MOS 2SJ217-2SK1297
パワーアンプ兼パワーIVC
一新
・21年前に製作したNo−144(改)4Ω対応パワーアンプ。 ・解体。 ・2SJ217−2SK1297パワーアンプ兼パワーIVCに一新。 |
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・2SJ217と2SK1297は勿論コンプリメンタリーペアではない。 ・VDS=10VにおけるVgs-Id特性はこう。 ・2SJ217と2SK1297のSPICEモデルは適当に拵えたものだが、まぁまぁそれなりかな。 ・なお、2SJ217の極性は勿論反対だが、比較のため見やすく表示したもの。 |
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・Vgs=2V(−2V)〜6V(−6V)(0.5V(−0.5V)ステップ)におけるVds−Id特性。 ・データシートの特性図と比べるとやや違うがまぁまぁかな。 |
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・大電流型MOS-FETも、実際のアンプでそんなに大電流領域は使わない。 ・もっと低電流の特性を見たいが、データシートにはそんな低電流領域の特性を載せたものはない。 ・ので、このモデルでVgs=2V(−2V)〜3V(−3V)(0.2V(−0.2V)ステップ)におけるVds−Id特性を観る。 ・コンプリメンタリーで使えそうな感じ? |
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・更に、ソース抵抗に最低限の0.1Ωを入れる。 ・その場合のVgs=2V(−2V)〜5V(−5V)(0.2V(−0.2V)ステップ)におけるVds−Id特性 ・当然gmは小さくなる。 ・が、2SJ217と2SK1297のgm差も縮小。 ・これなら |